ハナムグリのように

日々のあわ 思ったこと、聴いた音楽や読んだ本のことなどを

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扉を開く勇気はない。

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曇りの日が続く。
いつもなら雄大に見えている富士山も、まるで大仕掛けの消失マジックで消されてしまったように姿が見えない。
せっかく知り合いがこの町に来るのに残念だな、と思う。

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先日、知り合いから「今週、いつ暇?」とメールが来たので「金曜が暇だけれど、いま地元に住んでないよ」と返信すると「知ってる。じゃ金曜日そっちへ行くね」と返ってきた。ん?ちょっとまて。あなたの仕事の都合は大丈夫なのか?幼稚園の先生じゃないのか?と思い「仕事は?」と訊ねるとすぐにメールが返って来る。「大丈夫、今ニートだから」 なるほど。
当日、待ち合わせ場所のマクドナルドに着くと、知り合いはもう先に着ていてサッカーマガジンなんて読んでる。帰宅部だったくせになんでそんなの読んでるの?という疑問が浮かぶけれど、まぁ、それよりも「なんで仕事辞めたの?」と訊いてみる。理由はいろいろ、給料面や、職場環境なんかも含めて、いろいろ。と予想通りの答えが返って来る。それよりさ、と知り合いは話を続ける。先週マチュピチュへ行ってきたよ、独りで。とても楽しかった。人生にはこんなに素晴らしい事があるのかと思ったよ。と言いニコンの一眼デジタルを取り出して(いつのまに写真なんて始めたんだ!)旅行の写真を見せてくれる。マチュピチュやクスコの町や、ナスカの地上絵なんかを。
正直、羨ましいとかそんな言葉で表される感情じゃない、何か不思議な気持ちで胸がいっぱいになって苦しくなった。別に面白くもない仕事を辞めて、独りで地球の裏側へ旅行へいくだなんて、それは僕がやりたい事じゃないか。それを知り合いはしれっとやってのける。自分なんか、仕事を辞めたいとか、どこかへ行きたいとか毎日のように口にしていながら、それを実現させる勇気や行動力なんてこれっぽっちも無い。それでも仕事を辞めたい、どこかへ行きたい、なんて懲りもせずに口にする。少しでも気持ちを楽にするために。別に仕事を辞める事が素晴らしいとかそういう事じゃなくて、単純に僕には出来ない判断を、しれっ、とやってのける知り合いの姿が僕の心を苦しくする。なんだか凄く自分が恥ずかしくなる。
おまえ、凄いな。と本心を知り合いに言うと、だって人生は一回しか無いんだよ、と使い古された台詞で返される。こんな言葉を返されると、こいつは根が単純なんだろうな、とか思ってしまう。まぁ実際、単純なんだろうけど。自分なんか頭も良くないのにいろいろと考えすぎてしまって、結局答えが出ないから動けなくなってしまう。それじゃ扉は開くことができない。悔しいけれど。

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それにしても、遠方はるばる新幹線に乗って会いにきてくれるだなんて、なんて良い奴なんだろうと思う。高校からの知り合いだからもう10年くらいの付き合いか。年に一、二回しか会わない間柄だけれど、こういう友達は大事にしなきゃいけない。

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おもひでぽろぽろ [DVD]

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先の文章で「自分なんて頭も良くないのに色々と考えてしまって‥」と書いているときに、なんだか前にも似た台詞を聞いた事があるなぁ、と考えていたのだけど、あっ、思い出した。「おもひでぽろぽろ」だ。大好きな映画。
主人公のタエコが分数の割り算が苦手だったという話で出てきたんだ。ネットで調べたら文字に起こしているサイトがあったのでそのまま載せます。

「小学校の時、分数の割り算 すぐ出来た?」
「は?」
「分子と分母ひっくりかえして掛けるって、教わった通りにすんなり出来た?」
「うーん 覚えでねえなあ…ま でも算数そんなに苦手でもなかったけど」
(中略)
「分数の割り算がすんなり出来た人はその後の人生もすんなりいくらしいのよ」
「は?」
「リエちゃんていうね、おっとりした子がいたの。算数ぜんぜん得意じゃなかったけど、素直に分子と分母ひっくりかえして、百点!その子はずーっと素直にすくすく育って今はもうお母さん2人の子持ちよ。」
「ふーん」
「私はダメだったのよねえ…アタマ悪いくせにこだわるタチなのよね」

言葉は違うけれど、言いたいことはまるまるこのままだ。この映画を初めて観た小学生の頃は、この話がただの分数の割り算に関するあるあるエピソードだったけれど、大人になってから改めて見返すと(この引用した場所の前後の文脈とかも含めて)なかなか考えさせられる話。
おもひでぽろぽろ」はジブリ好きという人からも過小評価されている作品だけれども、それはやっぱり子供が観ても何の共感も出来ない映画だからだと思う。子供の頃にこの作品を観た人はそのイメージを引きずっているから過小評価してしまう。そりゃ27歳のOLが小学5年生の頃を振り返る映画なんだから、子供が観ても楽しい訳が無い。本当は文学的で繊細な、素晴らしい作品なのに。
そういえば、今年、僕は主人公のタエコと同じ27歳になる。 んー、歳とったなぁ。