ハナムグリのように

日々のあわ 思ったこと、聴いた音楽や読んだ本のことなどを

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だって今日はエイプリルフールだから。

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起床。目覚めの清々しさなんてものはなく、あるのは倦怠感と少しの頭痛。いつもそうで、こんな朝をむかえると一日ずっと調子が良くない。サイテーだな、と思いながらも仕事に行かなきゃ行けないので身支度をして出勤。家を出る段になって、あれ?と思う。声が出ない。出そうとする意思はあるのに声が出ない。出し方が分からないというとニュアンスが少し違うかもしれないけれど、とにかく出ない。失語症とか失声症とか、そういった類いのものなんだろうか。よくわからない。この場合仕事なんかに行く前に病院に行った方が良いのかもしれないけれど、どのみち電話で連絡する事は出来ないのだからと思い会社へ向かう。別に喉が痛い訳でもないし不思議と焦りはない。声が出なくても大丈夫大丈夫。と、その時は思っていた。
案外午後には治ってるんじゃないかな、くらいの軽い気持ちで駅まで歩いていると、自分の足音が遠ざかっていくのでビックリする。いや、遠ざかっているんじゃない。風の音も車のエンジン音もすべてが徐々にフェードアウトしていく。で、どんどん音は小さくなっていって、しまいには全ての音の輪郭がぼやけて水中に潜っているような聴感覚になってしまう。うわー、声が出なくなった次は耳が聞こえないのか。いったい自分に何があったんだろう。何かストレスでも抱えているんだろうか(って自分のことなんだけど)。けっこう焦って変な汗をかいてしまう。でも焦っているだけではどうにもならないのでとにかく会社へ。いざとなれば筆談って手もあるし。とにかく会社へ。
ということでいつも通りの電車に揺られていると、また変なことが起こる。連結部分の扉が勢いよく開いたかと思うと、そこから駅員と見知らぬオバサンが僕を指差しながらこちらへ向かってくる。座っている僕の前までくると、なにやら凄い剣幕でまくしたててくる。猿みたいな顔して何か怒鳴ってる。といっても今の僕にはそれを聴く事が出来ないし、耳が聞こえない事を伝える事も出来ないので困った顔をしていると、さらに(恐らくは)車両中に響くであろう大声を張り上げて僕に何か言ってくる。隣りの駅員も何か怒鳴ってる。でも、いやいや、全然聴こえません。というか、そもそも僕は何のためにこんなに怒られているんだろう。それが数分続いて、僕もさすがに嫌気がさしたので、もういてもたってもいられなくなり走って逃げ出してしまう。自分でもどうして逃げ出したのか今になって考えてもよく分からない。電車内を走るだなんて無作法な。駅員は一瞬ビクッとしたけれど正義感なのかなんなのか逃げる僕の後ろを走って追いかけてきて、そのことがなんだか無性にイライラしてしまい、僕は振り向きざまにグーパンチを繰り出す。そんな自分に驚く。腕力のある方じゃないし今までに人を殴った事なんてないからそれほど強いパンチじゃなかったけれど、なにせ駅員はこちらに全力で突進してきたものだから僕のパンチは駅員の歯を数本バリリッと折ってしまい、ついでに自分の手も怪我をする。手が血まみれなのは駅員の血なのか僕の血なのか分からないけれど、とにかくその勢いのままワンツー。と二回パンチしたところで駅員はダウンしたのでここからはキック、キック。止まらない暴力性。もはやキックというより踏みつけるようにして駅員を打ちのめす。と、そうこうしているうちに電車は次の駅に着いて、僕は下車する予定なんてなかったけれど状況が状況だから電車から飛び出す。そのあとはもう闇雲に走って逃げて、別の路線に乗り換えて、適当なところで降りてさらに乗り換えて、遠くへ、遠くへ、誰も追ってこないところへ・・・。
そうして5日が経った。便利なもので、財布さえあれば大抵の事はどうにかなる。逃げるときに鞄は落としてしまたけど(きっとそれで身元が割れた)、財布は持っていたので助かった。クレジットカードで何でも買えるしコンビニのATMで現金をおろす事だって出来る。適当に入った宿でも免許書さえ見せれば身元確認はOKだし、喋れなくても耳が聞こえなくても聾唖者のフリをすればみんな深く追求してはこない。障害者のフリをするのは差別的かなとも思うけれど背に腹は代えられないのだ。携帯は電源を切ったままだから誰も僕と連絡を取る事は出来ない。一日中電車に揺られて、飽きたら降りて歩いてバスに乗って、適当なところでまた電車に乗って、夜になったら宿を見つけて眠る生活。今は山陰地方のローカル線に乗ってる。どこに行く予定もないけれど、だからといって帰りづらい。なにせ電車内で駅員をボコボコにしているのだ。今返ったらさすがに逮捕されてしまうだろう。そんなの考えるだけでゾッとする。とりあえず今は何も考えたくない。仕事復帰は出来るんだろうか、とか、家族はどう思っているのか、とか、そもそも僕を捜している人、追いかけている人なんているのか、心配している人はいるのか、とか。そんなこと考えていてもキリがないし、それに楽しくない。僕は楽しい事が好きだ。今は駅弁を食べるのが楽しい。下車した駅のその駅前の商店街を歩くのも楽しい。電車の窓から海岸線を眺めるのも楽しいし、駅に置いてあるテイクフリーの観光マップを見るのも楽しい。この生活は楽しい。こんな生活がずっと続けば良いのにと、それは無理だと分かっているからこそ、僕はそう強く願う。

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もちろんだけれど、上の日記は全てうそ。