ハナムグリのように

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冬にわかれて の話 B♭の上に鳴るソ

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あくびをしている間にも、春は近づいてきている

 

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音楽を聴いていると、自分の好きな〝和声に対しての主旋律の当て方〟があることに気がつく。

ポップミュージックを聴くとき、多くの場合は主旋律に耳を傾ける。でも、その背景にはコードが流れていて、僕たちは無意識のうちにそのコード(和声)との関係性の上でメロディ(旋律)のイメージを受け取っている。例えばCコードの上のメロディはAm7の上でも鳴らすことができるけれど、そこから受けるイメージはCコードのそれとは全然違う。

よく、音楽を聴いて「素敵なメロディだ」なんて感想を言う人がいる。僕も言う。でもメロディだけを切り取って評価することは実は難しくて、どんなコードの上にあるかによってメロディは本当の意味を持つ。(と思っている。専門的に音楽を学んだことがないので、実際に音楽の世界でどう考えられているかはわからない。)

 

だからコードとメロディの関係性にも好き嫌いは生まれる。例えばマイナーコードの上にメロのトップが9度(楽器を弾かない人には分かりにくい表現かもしれない。ごめんなさい。音階はルートを1度として数字で表現する事が出来るのです。)で入ってくると僕はゾクッとしてしまう。胸を掻きむしられる感じがして好きだ。マイナーコードの持つ悲しさの中に切なさが足されるイメージ。Al Kooper「Jolie」のイントロなんかがそう。


Al Kooper-Jolie

 

あと最近好きなのは、3和音のメジャーコード(1.3.5)に対してのトップが6度で入るメロディ。和声の中に含まれてない音がトップで入ることはそんなに多くはないけれど、それでも僕の好きな名曲には使われていることが多い。はっぴいえんどの「風をあつめて」もそうで、サビのコードがE (ミソ#シ)に対してボーカルの頭がド#。ベン・E・キングの「Stand by Me」もそうだ。


【高音質】はっぴいえんど 風をあつめて

 

和声を4和音(1.3.5.6)で捉えてジャズっぽいニュアンスになっているのか、音楽的に詳しい仕組みはわからないけれど、メロが6度で入った時の世界観がとても好きだ。3和音から外れているのに短7度のような不安感も無いし、かと言って増7度や9度のように過度なエモーションを与えるわけでも無い。コードを俯瞰で眺めているような独特の立ち位置で、まるで懐かしい思い出話でもしているような、そんな距離感が6度の音にはある。そう、思い出話。自分の中ではこれがしっくりくる表現だ。

きっとそう思うのは、先にあげた曲たちのせいかもしれない。はっぴいえんどの「風をあつめて」(そして収録されているアルバム「風街ろまん」)は東京オリンピックを境に近代化する以前の東京を歌っているし、「Stand by Me」を聴いて思い浮かべるあの映画は言わずもがな、少年時代を懐古する映画だから。思い出の6度。懐かしい音。

 

 

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寺尾紗穂さんのバンド〝冬にわかれて〟を初めて聴いたのは深夜ラジオだった。偶然流れてきた「なんにもいらない」の冒頭「なんにもいらないよ 君の幻以外は」と言う歌詞を耳にした途端、脊髄反射的に、好きだな、と思った。好きになるときはだいたいそんなものだ。理屈じゃない。理屈はだいたい後からついてくる。

いい曲だなと思って手元のギターでコードをとると最初のコードがB♭。それに対してコード頭のボーカルはソ。6度だ。なるほどな、と夜中に一人ほくそ笑む。

すぐにApple Musicでアルバムを聴くと曲も歌詞も演奏も素敵だったので、すぐに寺尾紗穂さんのエッセイ『彗星の孤独』を注文する。

素敵な言葉に溢れた本だった。

 

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最初に聴いた曲の影響も大きいだろうけれど、音楽も文章も寺尾さんの作品は総じて6度のような世界観が流れているように感じる。3和音に含まれることなく、適度な距離感を保ち、俯瞰で冷静に、感情を過度に出す事もない。でもそれが逆説的に胸に響く。太陽の周りを回る彗星のような、そんな6度の世界観。

まぁ、つまり、僕は好きだな、という事。

 

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調べてみると僕の住む街でもライブをするとの事だったので、チケットをとって観に行くことにした。

MCで寺尾さんが〝冬にわかれて〟と言うバンド名は尾崎翠の「冬にわかれて 私の春を生きなければならない」という詩のタイトルからとったのだと話されていた。

偶然にも、そのライブの日は立春だった。

〝冬にわかれて〟を観るのには最高の日だった。

 


冬にわかれて - なんにもいらない

なんにもいらない

なんにもいらない

 

 

彗星の孤独

彗星の孤独