ハナムグリのように

日々のあわ 思ったこと、聴いた音楽や読んだ本のことなどを

4月1日

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頭が痛いと思ったら、やっぱりそうだ。変な天気だ。いつもそうだ。天気が崩れると頭痛がはじまる。

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朝、目を覚ますと右足の甲に鈍痛。少し熱を持っている感じで、骨がギューっと締め付けられている感覚。どうしたものかと見てみると、案の定、甲は腫れていて少し赤みがかっている。寝ている間にどこかで打ったのか、捻挫をしたのか(そんなことがありえるのか?)、理由はどうであれ病院に行ったほうがよさそうなので、とりあえずベッドから出よう試みるも体がだるくて動かない。睡眠は十分にとったはずなのに異常なほど眠たい。あまりの睡魔にもうちょっとだけ眠ることに。



目を覚ましたのは正午を少し過ぎた頃。不思議なことに足の痛みは無くなっていた。ベッドから抜け出して足を見てみると腫れも赤みも引いている。けれどもよく見ると右足の甲に2.5センチほどの赤い筋が見える。赤ペンで線を引いたようなそんな筋。その赤い筋は見ているその瞬間にも赤みを増していって、徐々に赤黒く変色していく。不思議と痛みはない。気持ち悪いなあと思って眺めていると、急にメリメリっと音がして同時に赤い筋が裂け、そこに眼球がにょきっと現れた。どう贔屓目に考えてもそれは人間の目だった。
頭が真っ白になった。足の甲に目が現れることが冷静に考えて何を意味することなのか。どんなに考えてもそれは分からないし、そもそも冷静に考えることが無理な話だった。その目は瞬きをすることもなく僕を見つめていた。
一見するとそれは睫毛も瞼もないせいで作り物のようにも見えるのだけれど、ときおり瞳孔が大きくなったり縮んだりするのでそれが生きていることは疑いようのない事実だった。その事実は僕のことを凝視し続けていた。怖い。途方に暮れる。



ふと気がつくと窓の外では日が傾きかけていた。その間、つまり五時間ほどかけて僕は考えていた。頭の中を整理して考えていた。自分の足に現れた彼(と言ったほうが適切な気がする)をどうするべきか。この事実をどう処理するべきか。考えた結果、僕は靴下を履くことにした。それが結論だった。最初は一刻も早く病院へ行こうと思ったのだけど、こんなことが世間に知られたら僕はワイドショーの良いネタになるか、もしくはどこかの大学病院に隔離されて研究と言う名の拷問に付き合わされるんだろう。そんなことならいっそ彼のことは隠して人生を送るのが賢いやり方かもしれない。だからまず隠そう。靴下をはいて。それが結論だった。
けれども賢明の策だと思った靴下作戦もものの一分で打ち砕かれることになる。靴下を履くと彼が怒り出したのだ。もちろん声に出して怒るわけではない。もっと陰湿に、骨を万力で砕いているかのような痛みを持って靴下を拒否してきた。痛みに耐えかね慌てて靴下を脱ぐとまたいつも通りの無表情な眼差しで僕を眺めている。困ったやつだなぁ、と呟くもそんな言葉に彼は聞く耳持たず。これは比喩でなく本当に聞く耳を持っていないんだから仕方ない。彼は眼球しか持ち合わせていないのだから。
それにしても眼球しかないと言うのもおかしな話だ。眼球がある以上そこから視神経が出ていて脳に繋がっているのが道理と言うもの。それなのに彼は眼球だけしか持っていない。もしも視神経が脳に繋がっているのだとしたらそれは僕の脳なんだろうけれど、僕の脳には彼の目を使ってみた映像が届いてはいない。ではこの目は目として機能していないかといったらそうではなくて、僕が顔を近づけるとピント調節をしているのか瞳の奥に微かな動きがある。僕の甲は間違いなく僕を見ている。自分とは別の生き物として僕を見ている。これは「第三の目」ではない、別の「第一の目」なんだろうか。



不思議なもので夜になると彼の存在にも慣れてきた。もちろん右足の甲に眼球があるのだから不気味ではある。でもその不気味さは恐怖を含んでいなくて、例えるならテレビでビックリ人間を見る感覚に近い。足の甲に眼球があるという「異常」が意識として薄れていく。慣れって怖いなぁ、と思う。
深夜零時になり、いつものように風呂に入ってみることにした。果たしてこの眼球を湯船に沈めて大丈夫なのか、その是非は分からなかったけれどこれが口や鼻などの呼吸器官ならいざ知らず眼球なんだから問題無いだろうと自分に言い聞かせて入ってみることにした。問題あってもそれはそれでよいと思っていたし。
実際、湯船に沈むとある変化が起きた。ずっと僕を凝視していた目が視線をはずし始めたのだ。びよん、びよん、と視線が四方へ飛び始め、ずっと無表情を決め込んでいた彼が眠たそうに目を細めた。足の甲で眼球が動くのはくすぐったかった。面白くなってそれを10分ばかり眺めていた。
風呂から上がると彼は充血していた。自分の体ながら悪いことをしたなと思って見ていると、徐々に熱っぽくなり充血も酷くなっていった。今朝、眼球が現れたときのように足が腫れぼったくなってきた。どんどん腫れてくる。眼球の充血は更にひどくなって、ついに赤いビー玉のようなキレイな赤色に染まったかと思うと突然、グシャ、と音がして潰れてしまった。痛くはなかった。足には「切り傷」だけが残った。
時計を見ると、ちょうど毎週見ている深夜ドラマの始まる時間だった。慌ててリモコンのスイッチを入れるとジャストタイミング。いつものように部屋でひとり、声を出して笑った。今週も面白い。面白ければ面白いだけ次の日の仕事が億劫になるんだよな。なんて思いながら、笑った。

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エイプリルフールなので嘘をつきました。
日常生活では嘘を言わないから、日記でがっつりと嘘を書きました。