#title {color:#666666;}


      • -


「道に迷ったことの無い人や知ってる道しか歩かない人、そんな人が一番この街の事を知らない」
なんて台詞を自分はよく口にする。何か無茶をして失敗してしまったり、文字通り道に迷ってしまった時に、苦し紛れの言い訳を装って冗談のように口にする。けれどもそれは言い訳でも冗談でもなく本心からそう思っていて、いつしか自分は本当にそんな行動、果てはそんな生き方をするようになっていた。道に迷ったり知らない道を歩く人生。わりと危険な、生き方の暗喩。
さらには実際に道を歩いている時にも、知らない道や先がどこへ通じているかわからない道を好んで歩くようになってしまったのだから困ったものだ。最近、よく道に迷って慌ててiPhoneで現在位置を確認することが多い。子供の頃はむしろ心配性で、知らない道を歩こうなんて微塵も考えなかったのだけれど。歳を重ねると考え方はこうも変わるのかと感心してしまう。

      • -


歳を重ねると変わる、と言えば小説や映画の感じ方なんかはその変化が顕著にでると思う。学生の頃に読んで退屈に感じた小説も今読むとすごく面白かったり、子供の頃大好きだった映画がとても退屈に感じたりすることは多い。でも、それだって考えれば当然の事で、芸術作品全般、特に物語性を持つ作品は受け手の人生経験や考え方によって相対的に変化するものだから、人生のどのタイミングで観たり読んだりするかによって評価は全く変わってくるはずだ。絶対的な評価なんて下しようがない。評価した人の人生経験や考え方によって相対的に変わって然るべきだし、さらに言ってしまえば、その評価は作品に照らして浮かびあがった自分自身とも言えるかも知れない。
だからネット上で映画のレビューを見ていると、映画の本質よりも、レビューを書いている人の人間性や人生経験、趣味嗜好が透けて見えるようで、不気味でもあり面白くもある。

      • -


年が明けたあたりから何本かジャッキー・チェンの映画を観ている。とりわけ80年代に作られたハリウッド進出前の作品を中心に数本を。最近では民法のゴールデンタイムにジャッキー映画を観る機会はめっきり減ってしまったけれど、90年代くらいまではゴールデン洋画劇場なんかで頻繁に放送していたから、僕と同じ30歳前後の世代には懐かしい作品が多い。『プロジェクトA』や『スパルタンX』に『サイクロンZ』。今観るとそのチープさに驚いてしまうような演出もあるけれど、それでもやっぱり面白い。正義の味方の勇姿。息を呑むアクション。良い意味でひねりのないストーリー。男の子の心を掴むには十分過ぎる内容だ。ジェットコースターのように時間が過ぎていく。
ジャッキー映画といえば当然ジャッキー・チェンが主人公の作品が多い。そのスター性は疑いようがなくて、僕自身も昔はジャッキーばかり目で追っていたように思う。けれども今になって観てみると、ジャッキーの脇を固める俳優陣の格好良さにも気付くことができる。特に魅力的なのはなんと言ってもサモ・ハン・キンポーだ。
サモ・ハン・キンポーはもはや説明不要、ジャッキー映画ではユン・ピョウと並んでおなじみのアクションスターだ。小太りでキノコ頭、お調子者でドジな三枚目キャラ。お世辞にもモテるとは言えない役柄だけれども、今になって観ると映画の中では重要な役を立ち回っている上にカンフーの腕前は抜群。注目せずにはいられない役者だ。しかも調べてみると『スパルタンX』や『サイクロンZ』ではなんと監督をしているし(ジャッキーが監督だと思っていた)、『プロジェクトA』では武術指導もしている。つまり自ら演出したピエロ役を華麗に演じきり、裏では武術指導、監督をして大ヒットカンフーアクションを作っていたわけだ。カッコよ過ぎるぞ、サモハン。昔はただのピエロだと思っていたけれど、お前が裏で操っていたのか。

そんなこんなで、自分の中でサモ・ハン・キンポーの株がぐいぐい上がっている中、彼が20年ぶりにメガホンをとった『おじいちゃんはデブゴン』を観た。

おじいちゃんはデブゴン [Blu-ray]

おじいちゃんはデブゴン [Blu-ray]

主人公はサモ・ハン演じる認知症の退役軍人。話は近所に住む少女との心の交流を描いたヒューマンドラマであり、辛い過去を抱える彼と娘の家族ドラマでもあり、中国マフィアとロシアンマフィアの抗争を描いたアクションでもある。もちろんカンフーアクションもあればカーチェイスもある。あと大家さんの恋模様もあるな。とにかく、これでもかというくらいの要素を詰め込んだ大作。と思いきや、それを一時間半にキュッとまとめて、しかもジェットコースタームービーではなく、わりとゆったりしたカットの多い不思議な作品。一見するとテレビの2時間ドラマみたいでバランスが悪いなと思ってしまうけれど、いや、この感じが社会と距離を置いた痴呆老人の世界観をうまく現しているのかと気付くととても腑に落ちる構成。流血シーンが多くて昔のカンフーアクションを期待して観ると裏切られた感があるものの、これはこれで悪くはないんじゃないかと思える。

それにしてもサモ・ハンはかっこいい。過去のお調子者イメージから30年経って演じるのが無口な痴呆老人だ。それがカンフーで中国マフフィアもロシアンマフィアもボコボコにやっつけるんだからカッコいいに決まってる。もはや過去の3枚目キャラは伏線なんじゃないかと思うくらいのギャップ萌えがある。面構えも凛々しい。